保険適応を解説①~これまでの経緯・助成内容まとめ~
動画内容書き起こし
刀禰:今日も吉村先生にお越しいただきまして、不妊治療をやっている方たちにとって、エポックメイキングな保険適用について良いことと、先生が思っている課題点もあるというふうなことをおっしゃっていたので、そういったことについて、いろいろと先生と理解を深められればなというふうに思っております。
吉村先生:菅前総理が2020年の9月に就任した際に不妊治療の保険適用とおっしゃっていました。
刀禰:就任の時におっしゃっていましたね。
吉村先生:もともと生殖医療というものに対する問題点って二つあったんですよ。
一つはやっぱり治療の経済的な負担の問題です。非常に若いカップルが不妊治療したいというときにお金がかかる、これだと何度も何度もできないというようなことがあったんですね。
もう一つは今回の保険適用とは関係ないんですけど、治療と仕事との両立ということが、大きな問題点でした。
まず菅さんは保険適用することによって少子化対策ということを全面的に打ち出したわけですね。まず、そもそも論として刀禰さん、どう思いますか?不妊治療の保険適用をしたら少子化対策になると思いますか?
刀禰:薄々思っていたんですけれども対策までは…
吉村先生:不妊に悩むカップルにとって経済的な負担をとってあげるということは大変良いことだと思います。
これによって不妊という病態が認知されて、不妊に悩む人が働きやすくなって、そして治療もしやすくなるという状況になれば将来的に少子化対策の一つになりうるかもしれないなという思いはあります。
いずれにしても保険適用になることになったんですね。保険適用になるにあたって三つ大きな問題点があったんですよ。
一つはですね、これまで1980年代から生殖医療を40年間自由診療でやってきたわけです。
この自由診療でやってきたということには良い点も悪い点もあるわけです。悪い点はどういうことかというと、値段の設定ができていないわけですからお金がどんどんかさんでくるということなんですよ。大変ですよね。
刀禰:大変です。
吉村先生:そういった問題点もあるんですけど一方、良い点としては例えば海外で使われている優れた薬剤とか医療機器とかを直ぐに使うことができます。保険適用の下では、こういったものを日本に入れるには厚生労働省が大変厳しい審査の下でやってきますから、なかなか海外で使われたものを使えないということもよくありますよね。
刀禰:いっぱいでありますね
吉村先生:しかし、自由診療だったからあらゆるものがすぐ入るようになっていたんです。だからすぐ手に使えて、世界の先端医療が日本で受けられるということは非常によかったと思うんですね。
刀禰さんも自分でやられたからわかると思いますけど、体外受精、顕微授精といっても色んな方法がある。
オプションも、ものすごくありますし簡単に言っても十通り以上の方法があると思うんですね。
一般的なベースのものから先進的なものまでいろいろあり、一つに保険適用というのはまとめて標準化するということは難しい。
これが本当にできるのかどうかという問題点がまず一番目にあります。
これまでは経済的な負担を取るために保険適用じゃないので特定不妊治療助成という制度があり、一定の割合で助成してきていました。
菅さんになってからこの助成金も高くなって1回30万円で6回まで支給され、2人目不妊で子どもを作ろうと思うとリセットされるとか、助成制度も非常に充実したわけですよね、去年の1月からね。
助成制度でやってきたクリニックは、自由診療で経済的にも恵まれた状況にあったわけです。生殖医療は、医者と看護師以外にも、例えば胚培養士とか、不妊治療のカウンセリングをする人とか、臨床心理士の方とか、要するにチーム医療でやっていたわけですね。
ところが保険適用になると一律に決められてしまうというとたくさんの症例を扱っているところだと例えば、1年間で一万例とか数千やってるとか、そういった大きなクリニックはまだ大丈夫かもしれません。
しかし年間に100とか200とかという周期しか行っていない地方のクリニック、まじめにやっておられるクリニックっていっぱい多いわけですよ。
こういったところがこういったチーム医療をできなくなる可能性が出てきます。
例えば、カウンセリングしたってそれに対して加算がされるわけじゃないですよね。地方のクリニックが経済的にもたなくなってくるんじゃないかということになると廃業という形もできてくるだろうということです。
今、日本全国に五百以上のクリニックがありますが、地方のクリニックがなくなってしまうということになると、患者さんのアクセスの点を考えると非常に難しくなるんじゃないかなということも考えられますね。
例えば刀禰さんなんかも飛行機でクリニックに通っていましたけど、お金のある方はいいかもしれないけれども、そういったことができる人ばかりじゃないと思います。そういう点が二点目の問題なんですね。
三点目の問題点は、新しい医療機器ができる、新しいメディウムができる、新しい薬ができる、こういったものがやはりすぐ使えるような状況にならないんじゃないかと心配しています。日本の保険制度の下では、厚生労働省の許可を受けることが大変で、これまでのような先進医療を行えなくなるんじゃないかという問題点が三つ目です。
刀禰:確かに最後のところも歴史が浅いというと失礼になるんですけどやはり比較的新しいじゃないですか?
吉村先生:そうですね。
刀禰:1980年から始まってどんどん日進月歩で進んでいくのに、最終的に便益とかリターンを患者の立場の人たちが受けづらくなるリスクもあるよねというのはやっぱり最後はお金じゃないということがありますからね、子どもに関しては。
吉村先生:一昨年に全国のクリニックにアンケート調査をしました。大体どのくらいのお金でやっているのかとか、どういった方法があるのかとか、色んなバリエーションがたくさんありますから、生殖医療について、6割から7割のクリニックがやってる手技は何なのかとか、こういった統計を取りまして、去年の3月ぐらいに大体の最終報告が出ました。
その後学会でガイドラインを作ることになりました。このガイドラインを作るということの作業が半年ぐらいで、本当に付け焼刃と言われてもしょうがないようなこともあるんです。
去年の6月ぐらいにガイドラインができたんですね。
このガイドラインに従ってですね、エビデンスレベルの高いAのものは、あるいはBのものは保険適用しましょう、じゃあCのものは先進医療を考えましょうということになりました。
色んな方法があるから、逆に患者さんから見てみたらどの方法が一番良いのかと、わかんないじゃないですか?
刀禰:おっしゃるとおりです。
吉村先生:国として標準治療とはどういうようなものか指定していただいて、このクリニックは標準治療に従ってやっていくとどのくらいの妊娠率なんですか、とかデータを示してほしいという患者さんの強い希望もありました。
ガイドラインができて、社会保障の保険制度を決めるその中医協というところで8月から9月ぐらいから検討をはじめたんですね。
厚生労働省もですね、すごいよく頑張ってくれて標準治療というものを決めたんですね。
しかも、それも非常に細かく決めたんです。卵を何個取って、何個受精させるかということによって、労力は全く違いますよね。
通常の保険適用であればこれはみんな同じ値段として算定されるということになりますけど、その個数によっても違うように設定されており、厚生労働省は、凄く努力されたと思います。
大体僕はこの標準治療の決め方にいろいろな疑問を投げかけていましたけれども、70点ぐらいの及第点をあげていいんじゃないかなと僕は思います。
刀禰:そうなんですね。
吉村先生:色んな先進医療として認められてきたものがありますよね。
タイムラプスなど受精卵の発育の度合いを調べる検査、これに関しても先進医療として使えることになりました。
日本の場合は、先進医療として認められていないと自由診療と保険診療を一緒にすることはできないんですね。
自由診療で受けたいと思えば、全ての医療行為が自費になってしまいます。
混合診療が認められない状況の中で、どうして保険診療と一緒にやっていくかということになると、先進医療として認めていくことが必要になります。
患者さんにとっては新しい医療を受けたい、よく勉強されているカップルが、なぜここでは受けられないのと言われる方もお見えになります。こういったカップルへの対応も一応、厚生労働省としては、先進医療として認める方向で考えてくださったということがあります。
刀禰:先進医療になるものっていうと、ちょっとお金の面から違いがあったりするんですか?
吉村先生:先進医療に関しては、クリニックによって違います。
だから例えば自分がこういったものをずっとやってきた先生方がお見えになって、こういった医療をしたいという場合には、先進医療として、クリニックは申請をしないといけないんです。この先進医療に対してクリニックで値段を決めることができる、そういうふうになっています。
だから例えばクリニックによって値段が違うことも当然出てくるでしょうし、そうするとお金がじゃあどのくらい実際に安くなるんだろうということが一番問題ですよね。これは基本的な術式だけで先進医療を受けないということであるならば、おそらく少しは安くなると思います。
でもそんなに患者さんたちが思っているほど安くはならないかもしれません。2割ぐらいは安くなるかもしれません。
先進医療を受けたりすると、刀禰さんなんかこういったことをよく知っているから、私はこれを受けたいんだと思ってやろうとするとかえって以前よりもお金がかかってしまうというような状況になることもあるかもしれません。
例えば3つの先進医療を付けたりするとかえって高額になり、必ずしも経済的な負担が全部のケースで取れるということにはならないこともありえます。しかし、平均的には1割から2割ぐらいは安くなるんじゃないかと思います。
刀禰:逆説的に考えると1、2割ぐらいなんですね。
吉村先生:先進医療をほとんど受けていないケースです。これは1割から2割ぐらい安くなるけど、多分カップルがこういったものをやってくださいといってオプションをつけると結構高くなるということですよね。