不妊治療のいろは~体外受精~

動画内容書き起こし

吉村先生:体外受精というのは、もともと卵管性不妊症の人に実施していました。
卵管が詰まっている女性です。卵管が詰まっていると精子と卵子が出会うことができませんね。精子は子宮の中から上がって来るし卵子は卵管の外から卵巣から卵管にピックアップされるわけだから卵管で出会えませんね。こういう卵管性不妊症のために開発された技術なんです。
今では体外受精というのは、卵管性不妊症にも使われていますが、男性不妊症の人とか機能性不妊という原因不明不妊、なぜかわからないけれども妊娠できないという人にも体外受精が使われるようになってきました。
体外受精では、数百万個1mlあたり数百万個の精子の数が必要です。
ある一定の数がないと、体外受精で妊娠することはできません。1mlあたり百万個を切るような場合には、顕微授精が必要になります。
自然妊娠であれば数億分の1、超エリートである1位の精子が卵子に入っていきます。体外受精の場合には百万個ぐらいのうちの一番が入っていくということです。
顕微授精になると、ヒトが1個を選んで顕微鏡下で卵に打ち込むことになります。人の目で見たものを
選んでいるんですね。ですから顕微授精と体外受精と自然妊娠ではまったく違うのではないかということが当初言われました。
ところが特にこれまで顕微授精はしてはいけないというような、不利益を被ることはないということから、現在では広く顕微授精が行われているということですね。

刀禰:いつ頃から顕微授精は行われたんですか?

吉村先生:現在の顕微授精は1993年ぐらいからですね。
顕微授精ってのは1個を選んで入れるわけですよね。この入れ方も非常にはじめ怖がったわけです。ですから顕微授精も非常に歴史があって4年間から5年間ぐらいは、卵の殻に開けた穴から精子が入っていくような方法を使っていました。精子が自然に入って、そして卵子の細胞質の中に精子の力で3、4個入っていく。そうするとどうしても多精子受精が起こっちゃうんですよ。
その次にやったことは、囲卵腔といって卵の殻と卵の実質の間にちょっと薄い層があります。そこの層に精子を2、3個入れるというようなこともしていました。いずれにしましても多精子受精が多かったということもあって、ベルギーのパレルモという人が卵子の中に1個精子を中に入れたんですね。
顕微授精というのは、実験的医療だったんですけどあまり大きな問題点が起こらなかった。1993年ぐらいからは、世界各国で顕微授精が行われるようになりました。
この顕微授精、ヒトでは他の動物より難しいのではないかというふうに思うかもしれません。ところがそれは間違いで、意外と人間はマウスと一緒でね、やりやすい種なんです。
ヒトは、精子の形がやはりいいんですね。平べったい精子なんかだとすると精子の頭を傷つけないためにガラス管が太くなってしまいます。頭が幅広くなければ細いガラス管で済むから、卵子を傷つけることが少ない、そういう意味で人間はやりやすい種だったんですよ。
まだ顕微授精で子どもができていないような種はいっぱいあります。
卵子が体外に出ることによって体外受精ができるようになって様々なことが可能となりました。
例えば、20代30代で月経がなくなって卵子がない方いますね。こういった女性でも子宮があれば卵子をもらってくれば妊娠することができます。
それから子宮がない人、子宮がんでとった場合もありますね。こういった場合には、自分の卵子を取り出して、ご主人との間に受精卵をつくって他人の子宮に戻すことができますね。代理懐胎ですね。こういった医療が可能になってきたということなんですね。これはやはり卵子が外に出たからできるようになったということで可能になりましたが、様々な問題点も起こっているわけですね。卵子の売り買いの問題もあるでしょう。皆さんもご存じかもしれないけどオーストラリア人の夫婦が、自分たちの卵子と精子で受精卵を作って、代理懐胎を依頼し双子が生まれましたが、その子どもの1人がダウン症だった。そのダウン症の子どもを引き取らなかったとか。

刀禰:ひどい…

吉村先生:ローマカトリックって今でも体外受精を認めていないんです。
要するに受精が生命の萌芽である。生命の始まりは受精からはじまるという考え方からすれば、これに対する人為的操作は許さないという考え方をローマカトリックは持ち続けています。僕は四十数年間生殖医療に携わってきてですね、やはりローマカトリックというのはなかなか慧眼ではなかったかなというふうに思います。卵が外に出ることによって色んな問題点が起こってきているわけです。体外受精という技術は、プロメテウスの火であったかもしれないけど、パンドラの箱を開けてしまい非常に大きな問題点を起こしたんじゃないかな?というふうに思います。

刀禰:体外受精によって救われてる人たちもいっぱいいるわけですね。

吉村先生:今、だいたい800万人から世界では900万人近くが体外受精で生まれているんじゃないでしょうかね。

刀禰:およそ1,000万人っていうことですね。

吉村先生:英国のエドワーズとステプトーという二人がヒト体外受精に成功しました。エドワーズは生理学者で動物の体外受精を研究していました。ステップトーという産婦人科医が腹腔鏡を実施されており、腹腔鏡下で卵を取ってくることによって体外受精は成功したんですよ。エドワーズさんはヒトの体外受精を成功するまでに二十年近くかかっています。1978年にヒトの体外受精を成功してまたたく間に全世界に広がったわけですね。
しかし、2010年までノーベル賞をもらえなかったんです。これはやっぱりね、ローマカトリックの反対もあったかもしれません。
2010年当時に数百万人も子どもさんが生まれているわけですよ。ノーベル賞の受賞目的は、人類のために貢献した研究者に与える、そういった意味からするとですね、素晴らしい成果ではなかったかと思うんですけどね。ノーベル賞って生きているうちしかもらえないんです。しかし、体調を崩してノーベル賞の授賞式には参加できませんでした。生殖医療に携わる者にとっては2000年くらいまではずっと毎年毎年期待していたんですけれども、2000年以降はもうこれはもうもらえないんじゃないかなと諦めていました。2010年に受賞され、僕たちにとっては素晴らしいエポックメイキングな出来事でした。

刀禰:今話させていただいたタイミング法と人工授精と体外受精、生殖医療の先端は体外受精なんですね。前二つもあるんですけどやはり違いをそれぞれ皆さん知っていただいて。

吉村先生:今のカップルは、タイミング法や人工授精法を飛ばしてでも、高齢であることもあり、早く子どもさんを欲しいということから、ほとんどが体外受精、顕微授精ということをされている方が多くなっています。
こういった歴史があったということをちょっと分かっていただけると良いかなと思いますね。

刀禰:今日はまず概要という形でありがとうございました。

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